清少納言による随筆。鎌倉時代の『方丈記』(鴨長明)、『徒然草』(兼好法師)と並び、三大随筆と称されています。
「うつくしきもの」「にくきもの」といった類聚的章段、「春はあけぼの」といった随想的章段、一条天皇の中宮 定子に仕え、藤原斉信・藤原行成らと交流した宮中の生活を活写した日記的章段があります。
雪のいと高う降りたるを、例ならず御格子まゐりて、炭櫃に火おこして、物語などして、集まり候ふに、「少納言よ、香炉峰の雪いかならむ」と、おほせらるれば、御格子上げさせて、御簾を高く上げたれば、笑はせたまふ。人々も、「さることは知り、歌などにさへ歌へど、思ひこそ寄らざりつれ。なほ、この宮の人には、さるべきなめり」と言ふ。
雪がとても高く降り積もっているので、いつもとは違って格子を下げていて、炭櫃に火をおこし、お喋りをして、定子様のもとに集まりお仕えしていたところ、定子様が、
「清少納言よ、香炉峰の雪はどうかしら」
とおっしゃるので、従者に格子を上げさせ、自分は御簾を高く巻き上げたところ、定子様は笑いなさった。まわりの人々も、
「そういうことは知っているし、和歌にも詠んだりするけれど、思いつきもしませんでした。やはり、定子様のもとにいる人は、このように風雅であるべきなのでしょう」
と言う。